インタビュー

VOL01 高尾ビジターセンター・村上友和さん

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3つのメッセージに想いをこめて、高尾山の魅力を伝えていきたい

高尾ビジターセンターは、高尾山山頂で登山客に高尾周辺の自然などに関する情報を提供している施設です。今回高尾ビジターセンターの解説員(インタープリター)である村上友和さんにインタビューを行うにあたり、事前にビジターセンターが主催する「ガイドウォーク」というプログラムに参加しました。始まってみるとあっという間の50分でしたが、参加しての感想は「高尾山の世界が一気に広がった!」という感動にも似た感覚でした。
高尾山周辺の鳥や蝶、ムササビ、虫、植物、動物の息遣いが聞こえてくるような、躍動感あふれる解説をして頂き、改めて高尾山のもつ自然の豊かさを実感することができました。

インタビュー・テキスト:相田修一(編集部) 写真:大作栄一郎

村上 友和(むらかみ ともかず)

1982年生まれ。学生時代に野生動物学を専攻し、卒業研究の対象として神奈川県のニホンザルを調査する。並行して行っていた自然保護ボランティア活動の中で環境教育と出会い、インタープリター(自然解説員)を志す。大学卒業後、自然教育を専門とする株式会社自然教育研究センターに入社。足立区の都市公園での勤務を経て、現在は高尾ビジターセンターでチーフインタープリターとして勤務する。

ビジターセンターが伝えたい3つのメッセージ

――それでは早速ですが、高尾ビジターセンターの成り立ちや仕事の内容を教えてください。

村上:高尾ビジターセンターは、解説員が常駐するビジターセンターとしては日本初で、開設して40年以上の歴史を持っているんですよ。
主な業務としては、今日参加された「ガイドウォーク」、ほかにも「スライドショー」「レンジャートーク」といったプログラムを毎日開催しており、さらに「自然教室」というプログラムを年に16回開催しています。
同時にビジターセンター館内では、高尾山の自然や歴史などに触れ合って頂ける展示や、センター窓口では高尾山に関する登山や観光のご案内を行っています。また、高尾山周辺の動植物や登山道の調査や情報収集、怪我などで救助を求めてこられる方への対応など、自然保護や登山にまつわる各種活動も行っています。

ガイドウォークでの1コマ。この日は5号路を散策しました。
「ガイドウォーク」の様子。高尾山周辺の自然観察を行いながら詳しい解説を聞かせてもらえる。

――業務の1つであるガイドウォークには、今日はじめて参加させて頂きました。たくさんの動植物の生態や、生活の痕跡を実際に目で確認しながら、実感を深められるように解説頂いたので、これまで抱いていた高尾山のイメージを覆すような、高尾山の世界の広がりを実感しました。

村上:実はガイドウォークを始めとするプログラムは単に、動物や植物の名前を紹介するだけの単調なものではなく、高尾山の豊かな動植物や自然を、実際に触れて体験して頂きながら、それを通して、我々として3つのメッセージを伝えたいという思いで取り組んでいます。

1つ目は、「高尾山の自然環境の保全」
2つ目は、「安全・安心の登山」
3つ目は、「高尾山だけでなく、自然環境全体の保全」

というメッセージです。

――なるほど、確かに普段感じることができない自然の豊かさを垣間見ながらガイドウォークは進んだと思いますが、実際のところ、堅苦しい注意やら教訓話というよりは、むしろ面白おかしく参加できたというのが実感だったんですが(笑)。

村上:そうですね(笑)。
高尾山にはたくさんの人が訪れますので、自然が好きな方や自然保護の意識が高い方も多くいらっしゃる一方でこれから関心を持たれる方もたくさんおられます。
ガイドウォークは、まずは“自然の豊かさ”に関心を持ってもらうというのが目的になるので、親しみやすい話や身近な話を、その時々の季節や動植物の状況に合わせて解説しています。
と同時に、次のステップとしての“自然を理解する”という段階の入り口という位置づけになるでしょうか。
そして自然を理解できて初めて、“自然環境の保全”に意識がつながるのだと考えています。

――ガイドウォークが自然に関心を持つきっかけには、確かになりました!
ということは、次のステップの“自然を理解する”というプログラムも用意されているのでしょうか?

村上:はい、それが年に16回開催され、1日かけてより深く自然に触れ合うことができる「自然教室」であったり、また我々が発行しているニュースレターにも、高尾山に関する各種情報とともに、想いやメッセージが込められています。

――なるほど、段階的にステップアップできる仕組みになっているのですね!
実際に話を伺って初めて知ることができました。私も次のステップが楽しみです(笑)。

高尾ビジターセンターが発行しているニュースレター「のぶすま」
高尾ビジターセンターが発行しているニュースレター「のぶすま」

ミシュラン“三ツ星”に選ばれて

――ところで、先ほどのメッセージの2番目で「安心・安全の登山」というものがありました。
高尾山は2007年にミシュランガイドの最高ランク“三ツ星”の観光地に選出されて以来、登山者や、観光客の数が急激に増えたような感じがするのは気のせいではないと思うのですが、登山者の増加に伴う、安全面の懸念などは実際にあるのでしょうか?

村上:ミシュラン三ツ星に選ばれて以来、確かに来られる人は増えました。
正確な人数は把握できないのですが、ビジターセンターに訪れる方の数でいえば、その前後で、2倍近く増えています。
実際近年の登山客の増加に伴って、登山中に転倒や怪我をされる方も増えてきていますし、さらには、心肺停止にまで至る方も2012年1月~2013年1月の間で、3名いらっしゃり、ビジターセンターに設置してあるAEDが活躍しました。

――確かに冬の凍結時の高尾山、特に薬王院から山頂にかけては路面が凍結すると、軽装では危険な場面もありますね。実際今年2月の積雪時は、途中凍結した坂道ですべって転倒している人も見ましたし、軽車両の救急車が往来しているのを目にしました。

村上:冬季・積雪時は消防署のほうから、登山時の注意喚起をするよう依頼されることもあります。
ビジターセンターの職員も人命救助の訓練を受けていますので、実際にけが人の救助に向かうこともあります。しかし専門の医師が常駐しているわけではないので、消防署や医療機関との連携はかかせません。
ちなみに、高尾山は登山客が多いので山頂にたくさんいる人の中に医療関係者の方がいらっしゃる可能性も比較的高いので、そういった方の助力を頂くこともあるんですよ。

――なるほど、それは普段あまり知ることができない、高尾山の一面ですね。他にも登山者増に伴う変化はありましたか?

村上:例えば心ない方が、高尾山特有の植物を採取しようとして、道や土壌を荒らしてしまうという残念なことも起こっています。これはネガティブな面ですが、しかし一方で、登山客が増えるということは、高尾山の豊かな自然に触れて頂ける機会が増しているというラッキーな面でもあるので、オーバーユースな部分をなんとかカバーしつつ、良い面を伸ばしていきたいと考えています。

「登山客が増えるということは、高尾山の豊かな自然に触れて頂ける機会が増しているというラッキーな面でもある」
「登山客が増えるということは、高尾山の豊かな自然に触れて頂ける機会が増えるという面もある」

――おっしゃる通りですね、村上さんの考える高尾山の良い面とはどのようなところでしょうか?

村上:まず都心からアクセスが良く、これほど豊かな自然環境をもっているという、この二面性が共存する山というのは他に類をみないと思います。
さらには、文化や歴史的な魅力にもあふれていて、そういった多様性というのも高尾山の大きな魅力ですね。ですからミシュラン三ツ星に選ばれた結果、高尾山の魅力に触れてもらえる機会が増したという意味では良かったと思っています。
ですが、ただ楽しいだけでなく、できるだけ高尾山の深い魅力・本質まで知ってほしいという思いが常にあります。そういった意味ではビジターセンターの役割・責任というものは大きいと考えています。

2ページ:ちょっと意外な高尾山でのエピソード »

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