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VOL03 中央大学附属中学校高等学校教諭・岡崎弘幸さん

ムササビを追いかけて35年。生物部の生徒とともに続ける観察会


大学時代からムササビの研究を続けられている岡崎先生は、勤務される高校で生物部の顧問として観察会を行うほか、テレビ番組のムササビ特集に企画から参加するなど、ムササビ研究の第一人者として活躍されています。35年以上ムササビの観察で高尾山に登られた回数は、昼も含めると通算800回以上にもなるとのこと。
今回は、研究を始められたきっかけや高尾山でのムササビの生態、観察会をとおして成長した教え子のことなどについてお話を伺いました。

インタビュー・テキスト:滝将之(編集部) 写真:大作栄一郎

岡崎 弘幸(おかざき ひろゆき)

1958年東京生まれ。筑波大学生物学類卒。東京学芸大学大学院教育研究科修了。都立高校で25年教諭を勤めたのち現職。生物部の生徒たちと高尾山を中心に、多摩の山地、丘陵地でムササビや野生動物の調査を行っており、生徒たちからはムササビ先生と呼ばれている。現在の研究テーマはムササビの分布と環境要因との関係。2003年 東京新聞教育賞受賞。2007年 東京都教育委員会職員表彰。2008年 文部科学省優秀教員表彰。日本哺乳類学会リスムササビネットワーク所属。日本生物教育学会所属。

ムササビを追いかけ始めたきっかけ

――先生は35年以上ムササビを観察されているということですが、そのきっかけはなんだったのでしょうか?

岡崎:一番最初は大学2年生の頃だったんですけど、平凡社の『アニマ』という動物にかなり詳しい雑誌があって、その特集で高尾山のムササビというのがあったんです。1975年だったと思います。それで高尾山にムササビがいるのか、ということで友達と来てみました。登ってみたもののなかなか見れなかったのですが、帰る寸前にようやく見られたんです。それで感動して興味を持ったのですが、あまり生態とかもよくわかっていないということで調べられないかな、と思ったのが最初です。

――大学時代から研究を始められたのですね。

岡崎:大学3年生になって動物生態学を専攻したのですが、先生からムササビの生態は難しいということで、自分たちでやって欲しいと言われて「野生動物研究会」というクラブをつくってやっていました。

――当時ムササビはほとんど研究されていなかったのでしょうか?

岡崎:当時は大学の先生であられた今泉吉晴先生や川道武男先生がいらっしゃいましたが、何人もいませんでした。まだ詳しい生態はわかっていない時代でしたね。
ただ、今ムササビを研究されている先生の中には、同じ頃高尾山に来て観察をしていた方もいます。当時お互いには知らなくて後からわかったのですが。

高尾山の人気者ムササビも昔は生態がよく知られていなかった。(撮影:大作栄一郎)

高尾山の人気者ムササビも昔は生態がよく知られていなかった。(撮影:大作栄一郎)

――その頃から、ムササビといえば高尾山だったのでしょうか?

岡崎:そうですね、高尾山は有名でしたね。御岳山とかも有名でしたが、高尾山は便利なんで。
アクセスがいいというのと、あと当時ユースホステルがあったんです。場所は現在、高尾森林ふれあい推進センターがあるあたりですね。
遅く下山してきても泊まれたのでよく利用していました。当時筑波にいたので、安く泊まれるユースホステルがあるのは重要な要素でした。

――高尾山にユースホステルがあったのですね!

岡崎:平成9年までありましたね。採算がとれないということでなくなってしまいました。
近くに自然博物館もあったのですが、こちらも一緒になくなりましたね。

――昔の高尾山はずいぶん雰囲気が違ったのでしょうね。

岡崎:昔も人は多かったですが、紅葉や新緑の時期だけでしたね。夜なんて歩く人はほとんどいませんでした。もっといろいろな動物も見れましたし、木も多かったですね。動物も人前にはあまり出てこなくなりましたね。

ムササビの生態と観察について

――次にムササビの観察方法についてお聞かせください。高尾山でムササビの観察というと薬王院と1号路が有名ですが、やはりそのあたりにしかムササビはいないのでしょうか?

岡崎:いえ、全山にいます。ただ、薬王院周辺は住みやすいと思いますね。高い木が多く、エサも多く、木の穴が多い、と三拍子揃っています。なので、環境としてはいいんじゃないですかね。
あと、寺の建物は高いので、天井とかに住むと天敵のテンなどがあまり入らないので安全、というのはあるのかもしれないですね。

薬王院の天井裏から顔を出しているムササビ。

薬王院の天井裏から顔を出しているムササビ(写真提供:岡崎先生)

――ムササビはやはり繁殖期が観察しやすいのでしょうか?

岡崎:ムササビの繁殖期は年に2回あって、5月と12月頃です。繁殖のときは結構早く巣から出てくるので、見やすいと言えば見やすいです。12月とかだと寒くて人も少ないですし(笑)、日が沈むのも早いので16時30分くらいに張り込めばもう出てきます。
ただ繁殖の時期でなくても、一年中観察はできます。夏は葉っぱが茂っているので隠れて見にくいというのはありますが。

――12月というのはかなり寒い時期ですね。

岡崎:なぜそんな寒い時期に交尾するのか?とも思うんですが(笑)、ムササビは交尾から74日後に子どもを生むと言われています。
なので12月末に交尾をすると3月中旬くらいに子どもを生んで、それから1ヶ月半から2ヶ月すると巣から出てくるんですね。だからちょうど新緑の時期に子どもが出てきます。柔らかい葉っぱが多いときに合わせて逆算するとちょうど12月くらいだといいのかもしれません。

――交尾はご覧になったことはありますか?

岡崎:交尾はないんですよ。TV番組のロケに同行したことがあり、繁殖期にかなり長い間カメラマンは張りこんでいたんですが、なかなか撮れない(笑)。繁殖期シーズンのオスとメスの追いかけっことかは結構撮れたんですけど、どこで交尾しているのか本当にわからないんです。全然見られない。よく来てたんですけど。

――以前3号路でムササビの子どもを見かけたことがあるのですが、位置的に薬王院から落ちてきたのかな?と思ったのですが・・・。

岡崎:3号路にも巣がいくつかありますよね。あと子どもが落ちてしまいますと、親がくわえて持っていくという例もあるんですが、ヘビが食べることもあります。愛知県でですが、アオダイショウが一瞬にしてムササビを絞め殺して飲んだ映像を見たことがあります。ヘビは、木に登って鳥のヒナを食べたりもしますね。

――山の中ではそんなドラマも起こっているのですね・・・。あと、ムササビの姿は見えなくても鳴き声だけ聞こえることがあります。鳴き声は何種類くらいあるのでしょうか?

岡崎:4、5種類くらいあるのですが、「グルルルル」「キュキュキュ」「ジー」とかの3種類をよく聞きますね。
高尾山ではよく鳴き声を聞きますが、地方に行くとあんまり鳴かないんですよ。長野県でムササビを探すことになって行ったことがあるのですが、ムササビの数はたくさんいるのですが、全然鳴かないから見つからないんです。

高尾山は1つの場所にムササビの数が多いんだと思うんです。そういうときによく鳴きますよね。
数が多いと主張するとも考えられます。ムササビはあんまり喧嘩をしない動物なので、「僕はこの木にいるから来ないで」とか鳴くことでお互いに近づかないようにしている気もします。

ムササビの滑空した瞬間!薬王院での滑空距離は最高で107mにも達する(写真提供:岡崎先生)

ムササビの滑空した瞬間!薬王院での滑空距離は最高で107mにも達する(写真提供:岡崎先生)

――観察するときに、よくライトに赤いセロハンをつけている人を見かけます。あれはどんな意味があるのでしょうか?

岡崎:白いライトだとムササビが緊張してしまうので、赤い光にして観察します。赤い光でも眩しがりますけど、赤だと普通にエサを食べたりはしてます。白い光を当ててしまうと、ムササビは片手を上げて固まって、極度の緊張状態になってしまいます。
僕たちはライトに手をかざして、手の隙間から光が出るようにしてますね。
ムササビがまぶしい顔していると、隙間の具合で光を調節します。観察会などでは、そうやって配慮するように参加者にもやってもらっています。

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