インタビュー

VOL07 高尾山 高橋家・高橋真紀子さん

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江戸末期の創業、樹齢150年の柿の木とともに歩む高橋家

高尾山にある多くのおそば屋さんの中でも、ケーブルカー清滝駅の正面にあり、風情ある建物で人々を惹きつける「高橋家」。創業が江戸時代の天保年間(1830~43年)と長い歴史を持ち、店内に入ったとたん樹齢150年の柿の木が出迎えてくれます。古くは旅籠(旅館)・茶屋として利用され、その後時代や周辺環境の変遷があり現在は人気のそば屋として営業しています。
今回はそんな高橋家さんのエピソードや人気メニューなどを、女将の高橋真紀子さんに伺いました。

インタビュー・テキスト:相田 修一(編集部) 写真:石黒 久美

高尾山 高橋家

江戸末期から170年もの歴史を持つ高尾山のふもとにある名店。現在の店主(社長)は高橋家の5代目にあたる。今回お話を伺った女将の高橋真紀子さんは店主の奥様で、ご夫婦で20年ほど前にお店を継いだ。女将は高橋家で生まれ育ち、子供の頃からお店の様子をみて育った。上の写真はスタッフの方々にご登場いただきました。

そば屋ではなく、旅館・茶屋だった高橋家

――高橋家さんはとても長い歴史を持たれていますが、昔からおそば屋さんだったのですか?

高橋:いえ、そうではなかったんです。今でこそ日帰りでいらっしゃるハイキングの方が多いですが、昔は今のように京王線もなく不便なところでしたので、旅館をやっていました。
薬王院のお参りのお客様がほとんどで、遠方からいらして前の日にうちにお泊まりいただいて、朝一番で登られるとか、そのようなかたちでした。

――いつ頃まで旅館業をされていたのでしょうか?

高橋:私が小さい頃はやっていませんでしたので、そうですね・・・、おそらく昭和の始め、戦争の近辺までだったのだと思います。
うちは2階もあるのですが、部屋が仕切れるようになっていたりして、その頃の名残がありますね。

――高橋家さんの建物はとても風情がありますが、いつくらいに建てられたものなのでしょうか?

高橋:今の外郭ができたのが昭和の始めです。
大正天皇が亡くなられて、昭和初期に武蔵陵墓地(八王子市内にある)が造られた際、このあたりもかなりの人で賑わったらしいんですね。
当時天皇陛下は特別な存在でしたので、全国から皆さんいらっしゃったのですが、御陵近くには宿もなくどうせなら高尾山にも、という方が多く、こちらの方に泊まられたと聞いています。
その賑わいがきっかけで、建て替えたようです。

風情ある高橋家さん外観。ケーブルカー清滝駅側から見たところ
風情ある高橋家さん外観。ケーブルカー清滝駅側から見たところ

――そうだったのですね。それでは今のようにおそば屋さんとして始められたのは、いつ頃になるのでしょうか?

高橋:昭和42年に京王線が開通して高尾山口駅ができてからは便利になって、お泊まりよりは日帰り、ハイキングのお客様が増えたこともあり、旅館というかたちではなく、今のようにおそばを提供する形態になっていきました。
当店以外でも6号路への道沿いなどにも旅館があったりしたのですが、廃業されたりしたようですね。

今はおかげさまで、おそばだけ召し上がりにいらっしゃるお客様というのも増えてきました。

――ちなみに高橋家さんの創業は江戸時代ですが、創業時はどのようなお店だったのでしょうか?

高橋:そうですね・・・、その頃の話は聞きづてでしか伝わっていないのですが、お山に登る前にちょっと休憩するような、よく時代劇とかに出てくる茶屋さんのような感じだったと思うんです(笑)。
主人と私がお店を継いだときに店舗を改装したのですが、その際に、昔使われていたと思われる籠(かご)が見つかったんです。簡単なつくりなのですが・・・。
もしかしたら当時それでお山を行き来をしたりしていたのかな、と思ったりしました。当時はケーブルカーもありませんでしたので(笑)。

――とても昔の風景が思い起こされるお話ですね(笑)。

高橋家のトレードマーク“柿の木”

――高橋家のトレードマークというと、やはり“柿の木”だと思いますが、樹齢約150年ということで、現在屋根を突き抜けて高々とそびえてますね。

高橋:昔は普通の庭木だったんです。
柿の木がある入口部分は昔、庭だったのですが、それを改築するときに屋根を足して今の状態に増築したんです。

柿の木が出ているお店の入口部分が、増築されたところ
柿の木が出ているお店の入口部分が、増築されたところ

――その改築はいつ頃にされたものでしょうか?

高橋:昭和の始めです。(前述の武蔵陵墓地を訪れる人々で賑わった時期)
樹齢約150年ですから、そのときにはもう充分大きな木だったと思うんです。
薬王院の近くということで、殺生禁断の意味合いもあって切らなかったのかもしれませんね。

お店に入ってすぐ目に飛び込んでくる柿の木
お店に入ってすぐ目に飛び込んでくる柿の木

――この柿の木は時期になるとたくさん実がなってますが、あれは落ちてきますよね。
いつも屋根がきれいなのでどうされているのかと思っていたのですが。

高橋:あれは掃除をするんです。大変なんです(笑)。
あと、枯れ葉がすごいので、屋根の掃除は従業員皆で行っています。「またやるよ〜」とか言って(笑)。
こればかりはしょうがないですね。

――そういうご苦労があるのですね! ちなみに柿の実は食べれるんですか?

渋柿なので食べられないのですが、霜が何回か降りると渋みが抜けて自然な干し柿状態になるので、以前はメジロなどの鳥がよく来てついばんでいました。とてもかわいかったですよ。

――お食事の甘味メニューの中に、薄切りの干し柿や、柿のシャーベットなんかがありますが、お店に生えている柿の木の実を使っているというわけではないのですね。

高橋:そうですね、年によって実の量も違って、安定して採れるわけではないので、柿は仕入れたものをご提供させていただいてます。

2ページ:そばと甘味の人気メニュー »

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