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VOL09 東京都レンジャー・田邉綾さん

高尾山の自然保護と適正な利用を担う東京都レンジャー


普段、何気なく通っている高尾山の登山道。1号路を始めとする自然研究路などの登山道は、誰かの手によって管理されることで快適に通行できるようになっています。東京都の自然公園内にある高尾山は都が登山道の管理を行っていますが、現場で実際に巡視を行っているのが「東京都レンジャー」の方々。
今回は、東京都レンジャーが普段どのような業務をされているか、また高尾山の現状などについてレンジャーの紅一点、田邉綾さんにお話を伺いました。

インタビュー・テキスト:滝将之(編集部) 写真:石黒久美

田邉 綾(たなべ あや)

東京生まれ。日本自然環境専門学校卒。植物が好きだったことから、新潟にある自然環境系の専門学校で学ぶ。卒業年度に募集をしていた東京都レンジャーに興味を持ち、試験を受け採用。平成23年から現職。「東京都レンジャー」は東京都環境局の所属になる。

東京都レンジャーとは?

――まず「東京都レンジャー」とは、どのような役割をされている方々なのでしょうか?

田邉:東京都レンジャーは、都内の自然公園で以下のような業務を行っている東京都の職員です。

・公園利用者への利用マナーの普及啓発
・希少な動植物の密猟や盗掘の監視
・登山道や案内板などの点検応急補修
・動植物の生息・生育状況などの継続的観測
・利用者への自然解説・ルート案内

高尾山では主に、登山道を管理したり、動植物の保護やモニタリング、マナー普及などの業務を行っています。

多摩地域では高尾のほかに奥多摩でも都レンジャーが活動しています。
また、小笠原諸島にも都レンジャーが配置されています。

――なるほど。いつも通っている1〜6号路などの登山道は、東京都が管理していたのですね。

田邉:登山道というとかなり数があって、東京都の管理ではない登山道もあるのですが、1〜6号路の自然研究路や稲荷山コースなどは都の管理になります。
基本的に指導標(道案内の標識)があるところの多くは、都が管理している道ですね。
陣馬山までのコースなども東京都の管理になります。

道順を示す指導標。上部に東京都の管理番号が記載された銀のプレートがある。

5号路にある指導標。上部に東京都の管理番号が記載された銀のプレートがある。

――レンジャーという制度は昔からあったものなのでしょうか?

田邉:レンジャーの制度が創設されたのが平成16年でして、まだ10年なので比較的最近のことになります。
登山ブームなどで利用者の増加に伴い自然が荒れていくのではという懸念があり、自然の保護と快適な利用の両立が課題になってきました。
元々、国(環境省)のレンジャーという制度はあったのですが、人数も少なく基本的に事務作業がメインでした。そこで課題解決のためには現場型のレンジャーが必要ということで、創設されたのが東京都のレンジャーになります。

高尾地域には現在3人のレンジャーがいます。奥多摩地域になると広いので、御岳・檜原・奥多摩にそれぞれ3人ずついて、計9人のレンジャーがいます。
高尾には私のほかにレンジャーが2人いまして、40代と30代の男性で2人とも7〜8年勤務しているベテランです。

−−高尾にいるレンジャーの方々は、普段どこにいらっしゃるのでしょうか?

田邉:同じ都の施設であるビジターセンターが事務所になります。

−−ビジターセンターは山頂近くですが、毎日の通勤は大変そうですね!

田邉:最初はちょっと大変でしたが慣れました。
通勤してきますと、ふもとのケーブルカー清滝駅に着いた時点で勤務開始になるんです。
そこから巡回しながら登ってくるかたちになります。
ただ、事務所が山頂近くなので、事務作業をするときも上がってこないといけないので、そこは大変ですね(笑)。

登山道の管理について

――それでは、レンジャーの日々の業務についてお聞かせください。登山コースの管理は具体的にどのようなことをされているのでしょうか?

田邉:高尾と奥多摩で違ってくるのですが、高尾だとやはり登山客・観光客が多いので、人による植生に対する影響がとても大きいということがあります。なので、登山道を管理することで周辺の植生が守られるようにしています。

例えば登山道には階段がありますが、あの階段には植生を保護する役目があります。階段の脇を通られる方がいらっしゃいますが、そうすると踏圧によって周りの草地までもが裸地化し、土砂の流出を招く結果になります。
そうならないように、階段の段差があまりに大きく歩きにくいところは、土嚢を積んで段差を少なくしたり、踏み面の木を打ち込み直したりするなど歩きやすいようにしています。

――階段の補修などの作業は力仕事で大変そうですね

田邉:私たちが行うのは応急的な補修になります。高尾地区はレンジャーが3人しかいないので、どうしても人出が足りなくなります。
そのような場合は「サポートレンジャー」というボランティアの方々にお手伝いしていただいています。活動の予定日を呼びかけると集まってくださり、一緒に作業しています。
あと、大がかりな補修になると業者が行うかたちになりますね。

小仏峠近くの階段補修作業を行うレンジャーとサポートレンジャー(写真提供:東京都レンジャー)

小仏峠近くの階段補修作業を行うレンジャーとサポートレンジャー。(写真提供:東京都レンジャー)

――以前スズメバチがいるということで、登山道が通行止めになっているのを見たことがあります。それもレンジャーが規制をするのでしょうか?

田邉:そうですね。ハチがいて危険だったり、台風の後の倒木などで通れないときなどは通行止めにします。
私たちが巡回しているときに見つけることもありますし、情報が他から入ってくることもありますが、その判断は私たちレンジャーが行います。
通行止めにした後は、ケーブルカーや薬王院など関係機関にビジターセンターを介して周知しています。

――スズメバチはどのくらいの大きさになると通行止めにするのでしょうか?

田邉:今はちょうど秋ですが、9〜10月に巣も大きくなりますし、攻撃的になりますね。
大きさは、巣が土の中にあって分からないときもあるのですが、近くを通ってすごい勢いで出入りしてたり、道からの距離があまりに近かったりとかすると、通行止めにすることがあります。

――駆除などもレンジャーの方々がされるのでしょうか?

田邉:駆除は基本的には業者に依頼してます。
駆除が完了した後で安全かどうか私たちの方で確認して、通行止めを解除します。
今年は3号路を一時通行止めにしました。今年はスズメバチが多いようですね。

――今年は多いのですね!どのあたりにいるのでしょうか?

田邉:3号路以外では小下沢の方にオオスズメバチの巣があったのですが、ここは登山道から遠いので通行止めにはしていません。注意喚起だけをしている状態です。
また、裏高尾の駒木野にある遊歩道(遊歩道梅林で有名)にもオオスズメバチの巣があって、近づかないようロープで規制しています。
ビジターセンターにも何人か刺されたという方がいらっしゃってます。
ハチは刺されてアレルギーが出ると大変なので、怖いですね。

――秋は台風の時期でもあります。何年か前は倒木などでかなり通行止めなどもありましたが・・・。

田邉:台風が過ぎた後はなるべく全員出勤するようにして、主要なコースを見て被害があるかないかを確認しています。
自分たちで作業できる範囲であれば処理してしまうんですけど、大きな木の倒木などは私たちだけでは無理なので、業者に作業を依頼することになります。

植物の保護や盗掘への対策

――植物を保護しているという看板や注意書きをよく見かけますが、それもレンジャーの方々が行っているのでしょうか?

田邉:はい。植物観察や写真撮影に訪れる方が増え、足で地面が踏み固められると植生が壊れてしまうということが起きています。
そこで立ち入りを制限するロープを張ったり、植生を保護してますという看板を出して踏み込まないでと周知しています。

――どのような場所で起きているのでしょうか?

田邉:春先の日影沢などでかなり見られます。
日影沢では春になるとニリンソウが群生し、一面じゅうたんの様に咲いていたのですが、踏み込まれることによって群生地が縮小・分断化してしまいました。

日影沢にロープ柵とともに設置された踏み込み防止の看板。

日影沢にロープ柵とともに設置された踏み込み防止の看板。

春先は日影沢で重点的にマナー普及の活動をしているのですが、かなりたくさんの方が踏み込んでいるのを目撃します。そういったときはお話しして「足下の植生の保護にご協力ください」と言って、チラシをお配りしています。
どうしても夢中になっちゃうとそれにばかりに目がいってしまうので、お気持ちはすごく分かるのですが、気をつけて欲しいですね。
みなさん声をかけると「あっ、すいません」という感じで聞き入れてくれる方が多いです。
悪気はなくて、より良い写真をと夢中になってるうちにどんどん入って行っちゃったということなのだと思います。

他にも冬には、「シモバシラ」という植物が、美しい氷の華を付けるので、大勢の方が撮影にいらっしゃいます。
こちらも同じように踏み込みの問題が起きているので、ロープを張ったり看板を出して注意喚起を行っています。

シモバシラの観察場所でも踏み込み禁止のロープが設置されている。

シモバシラの観察場所でも踏み込み禁止のロープが設置されている。

――なるほど、踏み込みの問題が起きているのですね・・・。あとは植物の盗掘を注意する看板を見ることもあります。高尾山では盗掘の問題も起きているのでしょうか?

田邉:高尾山は小さい山ですが、約1,600種という多くの植物が確認されている植生豊かな山です。中には花のかたちや色が美しいために持ち帰られ、その数を減らしたものもあります。

今年の春は明らかに盗掘だという事例がいくつも見られました。前日まであったものが次の日に突然なくなっていたりするケースもありました。
高尾山には植物が好きな方が大勢いらして、そういう方々からも「あれなくなっちゃたよ」など情報もたくさん入ってきます。

以前は希少な植物は目立たないようにしていたのですが、最近は新しい試みとして「保護監視中」というタグをつけるようにしています。
オープンにして一般の方にも知ってもらい、監視の目を増やしていくという考え方です。

STOP!盗掘の看板。違反者は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金。

STOP!盗掘の看板。違反者は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金。

――希少な植物が悪意ある人に持ち帰られるのは、とても残念なことですね。

田邉:盗掘の場合は、盗掘している人に会うというのはほとんどないので、踏み込みのように直接注意することは難しいです。
今年からは「盗掘防止パトロール中」という腕章をつくり、これを付けて歩いています。
サポートレンジャーなどボランティアの方々にも腕章をお配りして、巡回のときに付けてもらってます。
一般の人にそういう活動をしているということを知っていただければと思っています。

――高尾でそういう問題が起きていると知らない人もたくさんいますものね。

「盗掘防止パトロール中」の腕章

「盗掘防止パトロール中」の腕章。

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