インタビュー

VOL10 TAKAO 599 MUSEUM 館長・櫻井良吉さん
八王子市産業振興部観光課・川口貴弘さん

更新日:

高尾山を100年先も愛される存在へ。高尾山の新しい魅力を発信するミュージアム

より魅力的な施設をつくるために

――次にこの施設をつくることになった経緯をお聞かせください。このミュージアムはデザインが大変優れていて、今までの市の施設と違うという印象があります。

川口:最終的にデザイン面が取り上げられることが多いのですが、まずは皆さんがぜひ行ってみたいと思える魅力的な施設をつくる、というのが第一にありました。
元々東京都の「高尾自然科学博物館」がここにありまして、八王子市が東京都から移管を受けたのですが、その際に収蔵品を活用することと博物館機能を継承することが条件になっていました。
八王子市が計画をする際、従来ある博物館をつくるというよりは、独自性があってまた行ってみたいと思える施設をつくりたいということがありまして、関係団体や地元の方などからなる「あり方検討会」という会議を行ってまいりました。

八王子市産業振興部観光課・川口貴弘さん
八王子市産業振興部観光課・川口貴弘さん

――今回は日本デザインセンターの大黒大悟さんがアドバイザーとして参加されていますね。

川口:我々行政や関係団体だけですとどうしても知見が狭まりますので、「あり方検討会」にも有識者の方に参画していただきました。その中で空間のデザインを専門としたアートディレクターの大黒さんに参加していただいた経緯があります。
今までの市の計画書だと、文字や図形だけで完成するまでどういうものができるか想像できないことが多かったのですが、アートディレクターが参加することで、計画の段階でも視覚に訴える具体的なパース図面やデザインを用いて、皆様にわかりやすく説明できたというのは大きかったですね。

※八王子市HPからあり方検討会の報告書等がご覧いただけます。
http://www.city.hachioji.tokyo.jp/kanko/11781/

――「高尾自然科学博物館」から引き継いだ収蔵品は、どの部分になるのでしょうか?

川口:「NATUREWALL」の動物の剥製、バードカーヴィングなどになります。
本ミュージアムは博物館の機能は継承しているのですが、通常博物館は収蔵品を保護するために光が入らないような構造になっています。ただこの施設は観光や市民の交流の場でもあり、ガラス面で開放的な空間にしているため、紫外線が入り保護には向いていません。
剥製はそれほど紫外線で劣化が激しくならないので「NATUREWALL」で展示しておりますが、その他の収蔵品については市の教育委員会の施設で保管しております。
植物などの展示をアクリル封入にしているのも、そのような保護やメンテナンスの理由からです。

このミュージアムでは、博物館機能のうち、展示と教育・学習の部分を担っているかたちになります。

――なるほど、人の集まる場と保護を両立させるのは難しそうですね。

川口:今回はデザイン面で統一したコンセプトを持たせていることもあり、展示に説明文があまり付いていません。剥製にもプロジェクションマッピングを投影する関係で、キャプションはありません。(※側面の壁にはキャプションあり)
教育・学習の観点だとわかりづらいところもあるのですが、学芸員がおりますのでお声かけすることや、館内パンフレットやホームページなどで補完するようにしています。
洗練されたデザインで展示することによって非常に興味はもってもらえますので、展示を生かした運営をしていきたいと思います。

――あと、このミュージアムは防災備蓄倉庫もあったりと、防災拠点の役割もあると聞きました。

川口:高尾山にはたくさんの観光客がいらっしゃいまして、災害があった場合に一時的に滞留する場所が必要だという意見が以前からあり、今回の計画に盛り込まれました。
実はミュージアム中央にある16台の展示台も固定ではなく可動式になっていて、裏に収納することができます。
これは災害時に避難スペースとして使えるという観点以外にも、展示の柔軟性という観点もあります。
将来的にイベントなどが開催できるようにしたり、5年10年たって展示に飽きがきたときに入れ替えが容易になります。

他にも防災倉庫や仮設トイレ、Wi-Fi対応、防災無線など最低限の防災機能は備えています。東日本大震災の経験をふまえまして、LPGガスも設置していて炊き出しも可能になっています。
電車が止まり高尾山から帰宅困難者が出た場合も、人数に限度はありますが対応可能だと考えています。

施設の裏には防災用品を備えた倉庫がある。
施設の裏には防災用品を備えた倉庫がある。
LPGガスは通常カフェで利用されているが、災害時には炊き出しに利用できる。
LPGガスは通常カフェで利用されているが、災害時には炊き出しに利用できる。

――これは大変心強いですね。

ゆったりとくつろぎながら高尾山の自然について学習してもらいたい

――最後に高尾山を訪れる方へのメッセージをお願いします。

櫻井:このミュージアムは「くつろぐ」ということもコンセプトの1つになっていますので、ぜひ多摩産材でできたカフェのテーブルとイスなどでくつろいでいってください。
自然とのふれあいとともに、人とのふれあいの場を提供できればと思います。

川口:高尾山は昆虫の日本三大聖地と言われるくらい自然が豊かな山ですので、山に登ることをきっかけにそのような高尾山の面も知ってもらいたいです。
ふもとにあるこのミュージアムでくつろぎながら、高尾山全体のことを学習できる拠点として利用いただければと思います。
また、八王子市には他にも滝山や八王子城跡など魅力的な観光地もありますので、注目を集めている高尾山から八王子市全体の魅力を発信していきたいですね。

和やかな雰囲気の中、お答えいただきました。
和やかな雰囲気の中、お答えいただきました。

――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

* * *

【関連記事】TAKAO 599 MUSEUM | 施設 | 高尾山マガジン
オープン当日に取材した当サイトの記事です。展示や館内の様子などご参考にしてください。

この記事をシェア