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【自然講座】花を咲かせた後にスミレは何をしてる? スミレの生き残り作戦

自然ガイド

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種子を遠くまで運ぶスミレの作戦

植物は自由に動くことができないので、芽生えた場所で一生を過ごすことになります。しかし、同じ場所にずっといると様々な問題があります。
例えば植物を食べる昆虫や、病気を招く病原生物が集まってきたり、また、種子が一斉に芽生えると兄弟姉妹の間で光や水を巡る争いが起こり、共倒れになる場合もあります。
このような生存を脅かす危険を回避するために、植物はいろいろな手段を使って種子を分散させるという生き残り戦略をとります。

高尾山でよく見られる「タチツボスミレ」

高尾山では春に様々な種類のスミレの花が咲きますが、スミレは受粉が成功すると雌しべの子房が発達して膨らみ、果実を作ります。
果実の中では種子が作られ、成熟して乾燥すると分裂し、舟形の莢(さや)に入った種子が現れます。
莢は底の方から徐々に潰れていき、種子をパーンと勢い良く弾き飛ばします。
種子の飛距離を計測した実験では2〜5mぐらい飛ばすことが分かっています。
このように遠くまで種子を飛ばし分散させるのです。

乾燥して分裂した果実の莢

スミレが種子を分散させる作戦はこれだけではありません。
種子には主に脂肪酸から成る「エライオソーム(種沈)」という物質が付着し、アリはこの物質を食べ物として好みます。

赤丸の部分がエライオソーム(タチツボスミレの種子)

アリが地面に落ちたスミレの種子を発見すると、すかさず巣の中に運び入れます。
しかし種子が溜まりすぎると巣が埋まってしまうので、エライオソームが食べられた後の種子は巣の外に運び出されます。
このようなアリの運搬によりスミレはさらに遠く、そして広範囲に種子を分散することができるのです。

石垣に咲いたタチツボスミレ(アリの仕業か?)

開かない花「閉鎖花」も生き残りの戦略のひとつ

春は植物の草丈が低く、花粉を運ぶ昆虫は簡単にスミレを見つけることができます。しかし、春を過ぎると周りの植物は背を伸ばし葉も広げるため、昆虫がスミレの花を発見することが困難になります。
そこでスミレは初夏から秋にかけて昆虫による受粉が不要な「閉鎖花」を作り始めます。

タチツボスミレの閉鎖花
閉鎖花で生産された種子(タチツボスミレ)

「閉鎖花」は花びらが開かずにつぼみの状態で自家受粉する現象で、確実に多くの種子を生産することができます。
スミレの他にホトケノザやセンボンヤリなどの植物でも見られます。

センボンヤリの閉鎖花

スミレは昆虫に食べられたり、病気にかかったり、あるいは悪天候で個体自身が消失したりと、不意な出来事により個体数が減少する恐れがあり、生き残るためには多くの種子を生産して個体数を増やしておく必要があります。そのためにスミレは周囲の状況に合わせて、花を咲かせる「開放花」と確実に多くの種子を生産する「閉鎖花」を上手く使い分けて、種子の生産数を最大にしています。

植物は隠れたところでスミレのように生き残るための作戦を巧みに繰り広げています。美しい花の鑑賞に加えて、生き残りをかけた作戦を知ることは植物の魅力の一つです。
花期が終わった後も植物の姿を丁寧に追いかけてみると、その作戦を目の当たりにするかもしれません。

スミレの生き残り作戦は高尾山の登山道にも解説があります(写真は4号路)
自然ガイド

宮田 浩

1974年生まれ 東京都出身 愛媛大学大学院修了
学生時代は生態学を学び、愛媛県と北海道で外来魚を研究。大学院修了後は環境教育、グリーンツーリズム・エコツーリズムに携わり、その後は高尾ビジターセンターや御岳ビジターセンターでインタープリターとして自然を紹介。現在は東京の川と森を舞台として「東京の自然をゆっくり味わうツアー」を実施中。https://note.com/kawamori_tokyo/

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