インタビュー

VOL13 漫画家・氷堂リョージさん

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高尾山情報満載! 5年にわたり連載したほのぼの高尾山4コマ漫画

三十路OLの高尾山での山ガール生活を描いた漫画『高尾の天狗と脱・ハイヒール』。高尾山を描いた漫画は他にもありますが、高尾山だけにテーマを絞って全4巻も続いた漫画は他にはありません。この作品を描き始めたきっかけや高尾山での取材などについて、著者の氷堂リョージさんにお話を伺いました。

インタビュー・テキスト:滝将之(編集部) 写真:石黒久美 取材協力:TAKAO599MUSEUM

氷堂リョージ(ひどう りょうじ)

2002年に漫画家デビューし少女漫画を中心に活躍。『高尾の天狗と脱・ハイヒール』は『まんがくらぶ』(竹書房)で2013年から連載が開始し2018年に完結。単行本で全4巻が発売中。蛾好きの一面もあり、擬人化した蛾のイラスト集『MOTHPHILIA-氷堂涼二蛾集-』(一二三書房)も出版している。

高尾山の漫画を描き始めたきっかけ

――『高尾の天狗と脱・ハイヒール』は、三十路OL「御岳ノリコ」が彼氏にフラれたヤケで高尾山に登り、山に住む子天狗「聖(ひじり)」になつかれたことがきっかけで高尾山に通うようになるお話です。

主人公のOLノリコと天狗の聖。(3巻より)

最初はハイヒールで登っていたノリコですが、徐々に登山グッズを揃え高尾山のいろんなコースや四季のイベントを楽しむなど、全4巻の中で高尾山の魅力がたくさん描かれています。
これだけ高尾山にフォーカスした漫画は他にありませんが、そもそも高尾山をテーマに描き始めたきっかけは何だったんでしょうか?

氷堂:この作品を連載していた『まんがくらぶ』が、漫画好きのための雑誌というよりは駅の売店などで買われることが多い大衆紙だったんです。そこで、広く受け入れられるネタでないといけないな、と考えたときに、万人にわかってもらえる私の体験ってなんだろうと思ったら、小学校のときにしか来てなかったんですけど、高尾山がすごくいいな、と思いつきまして。
高尾山だったら天狗が登場するっていうのはどうですか、という具合で担当さんとトントン拍子で構想がまとまったのがきっかけです。
高尾山に登らないとダメだよね、というのは後から気づいたんですけど(笑)。

――では、この作品を書き始めるまでは、あまり高尾山にはいらっしゃっていなかったのですね。

氷堂:はい。若い頃から体力がないので、アウトドアなどはまったくせず、インドアで漫画を描いている日々でした。
まさか自分が登山靴を買って毎月山に登るようになるとは、思いもしませんでした。

『高尾の天狗と脱・ハイヒールパネル展』を開催中の599MUSEUMで取材をさせていただきました。

――ということは、最初の頃はネタのストックとかもない状態でスタートしたんですね。

氷堂:最初に取材がてら何度か、ケーブルカーで上って薬王院を通り頂上に行って帰ってくるという王道のコースを行ったのですが、それだけでもうヘトヘトだったんです。でもそのヘトヘトだったのを導入にしようかなって思いまして。
私の体力のなさをちょっと大げさにしたのが主人公のノリコでした。

――ノリコは最初、作品名にもあるハイヒールで登っていましたね。

氷堂:いろんなサイトを見ていたら、高尾山にハイヒールとかで来られて足を傷められる方が多いと書かれていたので、じゃあ多いってことはそういう登場人物がいてもおかしくないかな、ということでハイヒールを作品名に入れてみました。
高尾山に登ってる方だったら「あ〜、ハイヒールで登ってる人いるよね」という共感があるかなというのもありました。

――連載が始まってからはどのくらいの頻度で高尾山に取材にこられていたのですか?

氷堂:最初は体力的なものもあって2ヶ月に1回くらいだったんですけど、やっぱりネタが足りなくなると登る回数も増えて、多いときは1ヶ月に2〜3回は来てました。
私は漫画家のキャリアは十数年あるんですけど、4コマ漫画はそれまで描いたことがなく、ネタを4コマにまとめるのがすごい難しくて、行き詰まったときに「すいません、ちょっと登ってきてネタまとめてきます」と言って登りに来てました(笑)。

ネタが豊富なのも高尾山ならでは

――それにしても、単行本4巻分のネタ探しや取材というのは、かなりご苦労があったと思います。

氷堂:さらっと描けるときと結構ネタに詰まってしまうときがありまして。
グルメ系はウケもいいので、夏になると「ビアマウントでいきます!」みたいにすぐ描けちゃうときもあるんですが、大きなイベントがない月などは、実際に登ってネタをどんどん拾っていましたね。「アサギマダラが飛んでいました」とか。

――作品を見ると、いろんなイベントに参加されてますよね。節分も本堂の中の様子がちゃんと描かれていたり、火渡り祭、初日の出にも参加されてたりするので、すごいなと思いました。

節分会の様子を描いた「どアウェイ」(コミックス2巻収録)

氷堂:節分は本当に面白かったですね。北島三郎さんが登場されるのと同じ回だったのですが、本堂の中では北島ファミリーの皆さんがいらっしゃいまして。私達ははしっこの方にいましたが(笑)。豆まきの後の食事もすごい豪華なんです。
初日の出も毎年行ってますね。途中までは高尾山山頂で越していたのですが、この何年かは小仏城山で越してます。

――四季を通じて様々な切り口のネタがあるのも高尾山ならではですね。

単行本全4巻のカバーは春・夏・秋・冬の高尾山の風景になっている。

氷堂:あと、高尾山は行くたびにちょっとずつ変わっていくところもあり、それも題材になりますね。
高尾山温泉や599MUSEUMは工事中の頃から見ていたのですが、完成すると「今度ニュースポットができたよ」というネタになりますし、高尾山口駅もリニューアルされてキレイになって、トイレもすごい広くなったという変化もマンガに描けるので。
ノリコがよく通る稲荷山コースも新しく階段ができていたり、足をかける木が増えていたりするので「登りやすくなってるよ」と描いたりしていました。

――コースの保全は東京都レンジャーさんがボランティア(サポートレンジャー)を募って実施していますね。

氷堂:私、実はそのレンジャーの保全体験に一回参加したことがあるんです。
日影沢の川沿いの道での保全体験だったのですが、ニリンソウなど春の野草を撮影する方々が地面が踏み固めてしまい、植生を壊してしまうのを予防する活動でした。

――作中で保全の様子や、どうして踏み込みがよくないかなどが詳しく描かれていましたが、実際に参加して取材されているんですね。

「野草を愛するがゆえに見落としがちなこと」(コミックス4巻収録)

いざ奥高尾へ。陣場からの縦走で迎えるノリコのゴール

――作中では徐々に高尾山から奥高尾に足をすすめるようになっていますが、奥高尾を歩くには登山グッズが必要になってきます。主人公のノリコは少しずつグッズを揃えていきますが、氷堂先生も同じように揃えていったのでしょうか?

氷堂:はい。あれはノリコとまったく一緒でした。

――登山グッズを買ったらそれをネタに漫画を描いて、という感じでしょうか?

氷堂:そうですね。ハイドレーションを買ったらそのことを描いたり。
ハイドレーションって楽なので、面倒くさがり屋なノリコにピッタリなグッズだと思ったんです。
ノリコだったらたぶんビールを入れたいんだろうな〜と思って、描いてたりしました。私は入れませんけど(笑)。

「善は急げ!?」(コミックス2巻収録)

――奥高尾は、いわゆる観光地の高尾山ではなく登山好きな方が行くコースになってきますが、先生自身、徐々に奥高尾に興味が出てきた感じなのでしょうか?

氷堂:高尾山はいくつかコースがありますけど、それだけだとネタ的にたぶん1巻で終わってしまう、と思ったのもあります。
あと私自身も「これより奥高尾」と書かれている看板を何度か見ているうちに、そこから先が気になってしょうがなくなってきたんです。なにか結界的な力を感じますよね、あの看板は(笑)。

それで、普通の服装じゃダメだと思って、登山用品店で靴を買ったのがきっかけです。
元々両親が山をよく登っていたので、グッズについてはいろいろアドバイスを聞いたりしていました。
靴の次はストックを買ったりして、これならたぶん奥高尾にも行けるかなという感じで足を踏み入れました。最初は高尾山から小仏城山まで歩きましたね。

(コミックス2巻収録)

――ネタ探しという意味合いはもちろんあると思うんですけど、見ていると単純なネタ探しだけじゃなくて、高尾山や山歩きが好きになられていってるのかな、という印象がありました。

氷堂:基本的に私は体力がなくてアウトドアが苦手なんですが、都心に住んでる方ってそういう人たちが多いと思うんです。会社に行って帰るだけの生活をしていたり、インドアだったり。
でもそんな私やノリコでも行けちゃうよ、という感じで紹介はずっとしたかったんです。
それで私が登った実体験を描くようになり、自分が読者さんに紹介してると思うと、それが楽しくてまた高尾山に通ってネタを拾ったりとか、取材がてらの登山がどんどん楽しくなっていった感じですね。
どこもオススメとかいう言い方は作品中であまりしていなくて、この道は辛かったとか、あの階段は絶対許せない(笑)とか、私が感じたとおりの生の声で描くようにしていました。

――『高尾の天狗と脱・ハイヒール』は4巻で完結で、最後はノリコが陣馬山から高尾山まで縦走して終わります。高尾山をきっかけに登山を始めた人にとって、陣馬縦走というのはある意味、目標やゴールだったりしますよね。

氷堂:陣馬縦走で終わるという話は、わりと最初の段階で決まっていました。
ただ最初は高尾山から陣馬山方面に歩くことを考えていたのですが、「やっぱり高尾山に帰りたいな」というのがあって、途中で逆の陣馬山から高尾山に帰ってくる話にしたんです。

――最終話近くの何回は、4コマ漫画というよりストーリー性があって、読み応えがあり感動的でした。

氷堂:元々ストーリー漫画を描いていたので、これが漫画家としての素の私なんです。最後は陣場からの縦走も歩いたし、ノリコも人間的にも成長してくれたんだろうし、終わり方もいくつかパターンを考えていましたが、これからもノリコは高尾山に登るんだろうな、と思えるラストにしました。
(※ネタバレになるので結末は漫画でお楽しみくださいね)

「かえりみち」(コミックス4巻収録)

新たなキャラクターから見る、違う高尾山の魅力を

――『高尾の天狗と脱・ハイヒール』は完結しましたが、また高尾山をテーマに描かれる予定はあるのでしょうか?

氷堂:はい。また高尾山をテーマに描くことが決まってます。天狗たちもまた出てくる予定です。
ただノリコはもうハイヒールを履いていないので、「脱・ハイヒール」のノリコの物語は一回終わって、違う主人公がまた高尾山を初めて体験する、という構想で考えています。
ノリコとはまた違う性格の主人公が高尾山と触れ合っていくので、違う人の目から見た高尾山という感じになりそうです。ノリコはお気楽・前向き・強気だったので、できればその真逆のキャラクターがいいな、と思っています。
あと、ノリコはOLだったので土日しか登れなかったんですが、今回は平日も休めるキャラクターなので、平日の高尾山も紹介できそうです。

――ではまた高尾山での取材が始まるのですね。

氷堂:はい。基本的に私はすごい飽きっぽくてサボりぐせもあるんで、ネタを拾う義務がないと高尾山に登らなくなってしまう可能性があります(笑)。
そうなるとまた体力のない頃に戻ってしまってよくないので、自分の健康のためにも高尾山に登り続けようと思います。

――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。次回作を楽しみにしております。

作品中でもよく登場する稲荷山コースの入口で。こんな感じで高尾山を取材されています。

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【作品紹介】

高尾の天狗と脱・ハイヒール(1)

発売日:2015年01月17日
定価:本体650円+税

高尾の天狗と脱・ハイヒール(2)

発売日:2016/04/07
定価:本体650円+税

高尾の天狗と脱・ハイヒール(3)

発売日:2017/09/27
定価:本体650円+税

高尾の天狗と脱・ハイヒール(4)

発売日:2018/12/27
定価:本体750円+税

MOTHPHILIA 氷堂涼二 蛾集

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