インタビュー

VOL11 高尾ビール・池田周平さん

Enjoy Beer ! 高尾で始まったクラフトビール作り

高尾の名を冠したクラフトビール「高尾ビール」。2017年から製造が始まり、2018年になってからはボトルでの販売が開始され、高尾周辺のお店で入手できるようになりました。その味わいはもちろん、ロゴやラベルなどのブランディングも秀逸でファンが急増中です。高尾ビールを製造している「おんがたブルワリー」で、高尾ビール株式会社代表の池田周平さんにお話を伺いました。

インタビュー・テキスト:滝将之(編集部) 写真:鈴木竜馬

池田 周平(いけだ しゅうへい)

ポートランド州立大学(アメリカ オレゴン州 ポートランド)ビジネス オブ クラフトブリューイング科修了。ホイポロイ ブルワリー(アメリカ カリフォルニア州 バークレー)醸造プログラム修了。デザイン・広告企業での勤務を経て2017年に高尾ビール株式会社を設立。

「ごくごく私的な」ビール作りのきっかけ

――高尾でクラフトビールを作られているということで大変興味深いのですが、どのような経緯で高尾ビールを始められたのかお聞かせいただいてもいいでしょうか?

池田:もともとビールが好きだったというのはあるんですけど、実はビール作りを志したのって、この2、3年くらいの話なんです。

――そうだったのですね。高尾ビールを始められる前はどんなお仕事をされていたのでしょうか?

池田:デザイン会社や広告会社でサラリーマンをしていました。

――デザイン会社にお勤めだったのですね。高尾ビールのロゴやラベル、ブランディングが素敵だなと思ってたのですが、そのあたりも関係してくるのですね。

季節ごとの旬を題材に醸造するシリーズ「森は生きている」のラベルは、八王子のイラストレーター作

池田:ありがとうございます。自分はエンジニアやプロデューサーだったので、デザイナーというわけではないのですが、デザインとは非常に近いところにいました。
高尾ビールを始めるにあたって、ビール作りのほか、ブランドやポリシーの設計などのクリエイティブディレクションは自分でして、ロゴやラベルのデザインは知り合いのアートディレクターにお願いをしています。

高尾ビールを始めたきっかけとしては、そのサラリーマン時代に高尾に引っ越してきたというのが大きいです。

――もともと高尾周辺のご出身という訳ではないのですね。

池田:そうなんです。都心に住んでいたのですが、山歩きが好きで、週末や連休に南アルプスや北アルプスの山々に行っていました。
毎週行っているうちに、都心と高尾との往復の時間がもったいなくなっちゃって(笑)、この1時間があればもっと先の山に行けるぞ、と思いまして、山梨や高尾周辺で住む場所を探していました。

池田周平さん

――都心での通勤の便利さより、山へのアクセスを選んだのですね!

池田:はい。都心は都心で好きなので、山と街との間でどこかいいところがないかな、と探して見つけたのが高尾だったんですよ。それが2015年の頃です。
それからビール作りの話につながってくるのですが、いざ住んでみると高尾駅の前ってお店があまりなくて寂しいんですよ(笑)。
山に行くのにはいいんですけど、都心から帰ってきてビールが一杯飲みたいぞ、というときにいいお店がない。
八王子に行くといいお店もあるんですけど、家からふらっと歩いていけるところにビールが飲めるところが欲しい、じゃあつくるか、というところがスタートなんです。

−−そこがすごいですね。いきなりつくるか、という発想が。

池田:なので、高尾ビールのウェブサイトにも書いているのですが、「ごくごく私的な」きっかけなんですよね。

「おんがたブルワリー」誕生まで

――その想いから、具体的にビール作りが始まってくる訳ですね。

池田:まずサラリーマンの時期と並行して、アメリカのポートランド州立大学にビジネス オブ クラフトブリューイング科というプログラムがありまして、それはオンラインの授業なんですが、1年間集中して受講していました。
クラフトビールや蒸留酒などの醸造所運営のプログラムで、主に経営的なところを学びました。

次にビール作りに欠かせない、酒造免許を取得する準備段階に入ります。
免許を取得するには、まず製造所の場所と設備が必要になります。
場所は、最初は高尾駅前で探していたのですが、なかなかいい条件の物件が見つからなくて、徐々に駅から離れた物件を探していた中でこの「おんがたブルワリー」の物件が見つかりました。
ここはもともと八王子に多かった織物工場だったんですよ。織物工場のあとは当時近くにあった造形大の学生がアトリエで使っていた時期があったようです。天井が高くて大きいキャンパスが置けるということで都合がよかったのでしょうね。

――この場所を借りたのがいつくらいでしょうか?

池田:去年(2017年)の2月です。

「おんがたブルワリー」の醸造スペース。壁のイラストは友人のアートディレクターによるもの

――まず場所が決まって、そのあとに設備をいれていくという流れですね。

池田:そうですね。場所を借りるのと並行して、いろんな人に醸造の設備がないかと聞いていたのですが、アメリカの友人が近所のブリューパブ(ビールを作って飲ませるパブ)が設備を手放したがっているという話を持ってきてくれました。
自分にとってはちょうどいいタイミングだったので、アメリカに渡って実際にそこで設備を見たり使わせてもらったりして、いいものだったので持って帰ってきました。

――アメリカから持ってきたのですね!

池田:大学の授業で機材の選定のプログラムもあったのですが、入手した設備はその授業に出てきたポートランド製のメーカーのものだったんです。自分の憧れのブランドでもあって、入手は到底無理だろうと思っていたものだったのですが、偶然そんな話があり中古価格で譲ってもらうことができました。
中古とはいえアメリカから輸送費や関税など考えると、正直中国の新品を買ったほうが安いんですけど、「ストーリー」を買うということで決めました。

ブルワリーには、アメリカから持ってきた重厚な設備が並ぶ

――そのような大変な準備を終えて、実際に免許をとられたのがいつになるんでしょうか?

池田:去年(2017年)の10月18日です。

――では、実際にお酒をつくり始めたのはまだ半年前くらいなのですね。実際につくり始められてから半年というのが驚きで、本当においしいので、何年もビール作りの経験をされていたのかと思ってました。

池田:もともと興味があったので、自分で座学で学んでたりしました。日本はあまり情報がないのでアメリカの書物を取り寄せたり、インターネットで情報を得ていました。
あとはアメリカに行ったときに、アメリカの友人のところで作ったりというのはしていましたが、職業的にどこかで学んでいたというのはないんですよ。
つくるよりは断然飲んでる年数の方が多いですね(笑)。

地場産の素材との出会い

――高尾ビールには八王子産の素材がよく使われていますね。

池田:地場産のもので絶対つくろうというこだわりはなかったのですが、ビールを作り始めたときは、八王子にこんなに農作物があるとは知らなかったんです。
ブルワリー周辺の農家さんと話していると、八王子で小麦やパッションフルーツを育てている農家があるという情報が入ってきて、地元でつくった新鮮なものを入れていくというのは飲み物にとっても良いことなので、よく使うようになりました。

発酵の具合を確認。ビール作りの大切な工程

あとこの恩方というエリアは、農家さんが周りにいて、ゆずや梅、ブルーベリー、りんごもあって、使える素材がすごくたくさんあるんですよ。
駅前でやっていたらこうはなってなかったと思いますね。都心でやっているのとあまり変わらなかったかもしれません。ブルワリーにこの場所を選んでよかったなというのはあります。

――ホップはビール作りに欠かせないと思いますが、ホップも八王子産のものを使われているのですか?

池田:ホップは自分でも育てたいと思っていたので、周りの農家さんと協力して育てています。
ただビール作りで使用するホップは大量になるので、全てをまかなう分は自分たちだけでは収穫できないんですよ。足りない分は外国から輸入してます。

ホップもそうですが、必ずしも地場産のものがベストというわけではなく、素材の適材適所というのはあるので、八王子産にこだわるつもりはないのですが、なるべく地元の人が喜ぶというのは大切にしたいなと思っています。
農家の方も自分のところでとれたホップでできたビールを飲むというのは、貴重な体験として喜んでもらえているようです。

高尾ビールのラインナップ。「NOMU PAN」は素材に八王子小麦を使用

Enjoy! Think Local

――ファンが増えてきていますが、今後の展開としてはどのようなことを考えていますか?

池田:生産量が少ないのでそこはもうちょっと増やさないとな、というのはあります。
ただ全国で売りたいという話でもないのですが。

――今は高尾山口駅周辺のお店や、高尾駅やブルワリー近くの酒屋などで購入できますよね。

池田:酒屋さんだと、基本的に昔から地元で商いされているお店に卸しています。
地元の人だけが来る酒屋さんだったのが、高尾ビールという新しい商品を置くことによって、地元の人以外が買いにくるという人の回遊が生まれる。まず人の流れをつくる、というのがやりたいところですね。
酒屋の方も普段来ない人が買いにきて新鮮だと喜んでくれています。
数がそんなに出てないので、売上に大きく貢献しているという話ではないのですが、高尾ビールが人の流れをつくる装置になってくれれば。
それはひとつ目指しているところです。

――ただ飲んで楽しむだけでなく、人の流れができるというのは面白いですね。

池田:あと、始めたきっかけが、高尾の駅前が寂しくてつまらないというのがあるので、やはり駅前にお店をつくりたいという想いはあります。
駅前にビールスタンドをつくれば、そこにサンドウィッチ屋さんやコーヒー屋さんがきたりというような、商圏を形成できるかもしれません。
今、高尾山から下山した人はそのまま電車に乗って都心まで出てしまって、高尾駅に寄ってくれる人というのはあまりいません。商圏ができれば、高尾山口から高尾に向かって甲州街道をゆっくり歩いてもらえる人も増えるかもしれない。
地元の商店の方に聞くと、昔は飲み屋もたくさんあってとても賑わっていた街道だったようです。高尾山口と高尾の間の人の往来を増やしたいというのも、うちのミッションのひとつなんです。

ブルワリー併設のボトルショップでは、出来たての生ビールの試飲やボトルビールが購入できる

おんがたブルワリーは製造所としてはずっと使っていきたいのですが、お客さんに提供する場としては駅からも遠く、皆さんが来れる場所ではないので、ゆくゆくは駅前につくって、そこに自分が飲みに行ける店をつくるというのが目標です。
もともとそれがないというのがスタートだったので。

――それはすごい楽しみな展開ですね。お店ができたらぜひ遊びに行きたいです。
本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

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【関連サイト】高尾ビール|Takao Beer Co.