インタビュー

VOL09 東京都レンジャー・田邉綾さん

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高尾山の自然保護と適正な利用を担う東京都レンジャー

シカの脅威 動物の生息状況の観測

――最近、今まで高尾山にはいなかったニホンジカが近くまで来ていると聞いたことがあります。ニホンジカは植物を食べつくしてしまい、高尾の豊かな植生が失われるのではと心配しているのですが・・・。

田邉:そうですね、高尾周辺にも来ているという情報が入っています。
奥多摩の方には既に普通にいるのですが、数が多すぎるため被害も本当に深刻でかなり草花などが食べられてしまい、目に見えてわかるほどです。
高尾でも最近では頻繁に情報も入ってくるようになっています。

――どの辺りまで来ていたりするのでしょうか?

田邉:陣場山の北側にある市道山(いちみちやま)や醍醐丸では、既にシカが樹皮を食べた跡が見られます。

陣場山のすぐ北にある醍醐丸では、シカによる樹皮の剥ぎ跡が見られる。
陣場山のすぐ北にある醍醐丸では、シカによる樹皮の剥ぎ跡が見られる。(写真提供:東京都レンジャー)

あと情報として入っているのは小下沢とか・・・。

――えっ、小下沢まで来ているのですか?

田邉:林野庁や私たち東京都、あるいは民間の調査会社がセンサーカメラを仕掛けているのですが、そのカメラに小下沢あたりでも写ったという情報があります。
多摩森林科学園の中でも、センサーカメラを仕掛けているのですが、ここでもシカの姿が写ったようです。

――多摩森林科学園は貴重な種を保存していたりするので、心配ですね。

ただ、対策が早かったみたいで、既に電気柵などを設置したそうです。

そして高尾山の中だと4号路にもセンサーカメラを設置しているのですが、そこにも写っていました。
ちょっと通りかかっただけなのか、定着しているのか分からないのですが、樹皮を剥いだなどの目に見えた被害というのは、今のところ見られていません。
ただ、これだけ植生が豊かなところなので、シカにとってもかなり居心地はいいところなんじゃないかと思います。密度が高くなると植生がダメージを受ける可能性はあります。
今後もセンサーカメラを増やしながら、どのくらいシカがいるのか、植生への影響は出ているのか、情報を集めていくつもりです。

あと、奥多摩の方から迫って来ているな、というのは感覚としてあったのですが、どうも神奈川の方からも来ているようですね。

――思ったより近づいてきている印象ですね。狩りをする人はいないのでしょうか?

田邉:高尾山ではないのですが、高尾周辺の八王子市内では、猟友会などが狩猟としての捕獲を行っているようです。
ただ、基本的には農林業の被害、農地の保護に対応するための捕獲なので、高尾山の中での捕獲となると、登山客もいるし難しいところがあると思います。

――何とか植生が守られることを祈っています!

学んだことを活かし地元に貢献するためレンジャーの道に

――田邉さんはどのような経緯でレンジャーになったのでしょうか?

田邉:私は昔から自然が好きで何か自然関係の仕事に就きたいな、と思っていました。
生まれは東京なんですが、新潟に自然環境系の専門学校がありそこに進学しました。学校では植物や動物、昆虫などについて勉強していたのですが、卒業するときに東京都レンジャーの募集があったので応募しました。
東京都レンジャーの場合、基本的に欠員があったら募集するというかたちなのですが、私のときは多摩地域の募集があり、多摩だったら地元だし、専門学校で学んだことを活かして地元に貢献できるかもしれない、という思いがありました。

――なるほど。欠員がないと募集がないということは、タイミングも合わないと都レンジャーにはなれないのですね。都レンジャーになるためには、試験があるのですか?

田邉:はい、あります。筆記試験で一般教養と専門的な問題が出題されました。東京都の自然に関することや動植物に関することなどです。そして試験の後に面接という感じです。

――田邉さんはレンジャーになられてからずっと高尾勤務なのでしょうか?

田邉:欠員があったときに配置が変わり移動になることもあるのですが、私は今年4年目になりますがずっと高尾ですね。

植物が好きで自然関係の仕事に興味を持ち、レンジャーの道に進んだ
植物が好きで自然関係の仕事に興味を持ち、レンジャーの道に進んだ。

――最後になりますが、登山客や観光客へのメッセージなどあればお願いします。

田邉:一番は安全にというところですね。
高尾山は観光地になっていることもあり、かなり軽装備で来られる方が見られます。
雨が降っても雨具がなく濡れてる方もいますので、いちおう山だよ、ということを認識してもらい、安全に楽しんでもらいたいですね。
冬は日暮れが早く4時くらいには暗くなってしまうのですが、街中と同じ感覚で来て暗くて下山に困ってる方もいます。ライトなどの装備も必要です。

あと、とにかく山頂を目指して急いで登ってる方がいらっしゃいますが、ちょっと立ち止まってみると、いろいろ見えてくることもあるので、ゆっくり周りに目を向けて楽しんで欲しいなと思います。
自然を見ながら楽しめるところもたくさんあります。
巡回してお会いした方に自然の解説をすると、興味を示してくれたりしますので、自然の楽しさを知ってもらうというのも、私たちの役目のひとつなのかなと考えています。

都レンジャーでは毎月1回「都レンジャーNews」を発行しています。
高尾山の施設に掲示していたり、東京都のHPからも見ることができますので、ぜひご覧ください。

――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

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